ダイヤモンドより輝くって何?宝石の”輝き”について、ざっくり使われている言葉を整理します。
物理現象や美意識などの個人的価値観など、いろいろな要素の組み合わせで使われている「宝石の輝き」について、その言葉の指すものをまとめてみました。物質としての宝石に関して具体的に数字で表されるものは「屈折率」「分散値」など少なく、他の事柄については色・カット・透明度など様々な要因が組み合わさって「テリ」や「明るい」などの様に使われている様に思われます。ダイヤモンドの●●倍輝く!と言うときの「輝き」って何?と気になったときや、お手持ちの宝石や、購入検討中の宝石の「輝き」について表現したいときに参考になりましたら幸いです。※宝石屋界隈での使われ方です。
光学的な意味での「輝き」
光沢(luster)
屈折率と関係が深い要素で、反射光の強さのことを指しています。ダイヤモンドの「金剛光沢」などがこれにあたります。研磨の品質でも差が出ます。いろいろなところで反射させて一番明るいところがその宝石の本来の光沢になります。
全体ボケてるのに、ここだけすごく光ってるじゃない?という様なときは「磨きが甘い」と文句を言われたりするかもしれないです。(ちなみに、硬度が高いからよく光ると言うのは、硬いからエッジがダレずに研磨される。研磨剤も硬い物を使うから、まっすぐ平らに磨けるので良く光る、という具合です。)
一般的に用いられる「ピカピカ」はこれだと思います。
シンチレーション
ファセット(カット)された宝石の、反射光の移ろいのことを指しています。
石・光源が動いたときに、カット面からカット面へと反射光の強弱を含めて輝きが移動していく様子のことです。例えばミラーボールの輝き方ですね。
屈折率が高く研磨が良好なほど反射光の強弱の幅が広くなるので、シンチレーションがはっきり見えてきます。
一般的に言われる「キラキラ」の要素のひとつだと思います。
色石だと内側で色の濃淡も移ろってみえ(よく反射する角度の時は色が薄く、そうでない部分は色濃く見える)、これをモザイクパターン(が美しい)と言ったりします。
虹色
分散(dispersion)
ダイヤモンド、デマントイド、合成モアサナイト、YAG、キュービックジルコニアなどなどの「プリズム色」で、光の波長(色)によって宝石の中を通るときのスピードに差がある(赤や緑や青の波長によって曲がり方が異なる)ので、白い光が様々な色に分かれて出てくるの虹色のことを言っています。海外では「ファイア」と呼んでいます。
モアッサナイトやキュービックジルコニアはこの分散(可視光内の光の屈折率の一番高い値と一番低い値の差)をもって「ダイヤモンドの●●倍」と謳うことが多いようです。
(白い光は分解されているわけで、理屈上は明るさでいえば暗いんですよね。正確にはダイヤモンドの●●倍のファイアですかね?)
一般的に言われる「キラキラ」の要素のひとつだと思います。
イリデッセンス(iridescence)
光の干渉や回折で起こる「虹色」のことを指しています。シャボン玉の薄膜の内外で光が反射して、何色だかの波長が並走するときに打ち消したり増幅したりして見える虹色や、光が細い隙間を通り抜けたときにちょっと散らかるために見える虹色のことで、「真珠光沢」(パールオリエント)の淡いセカンドカラーや、ムーンストーンの「シラー・シーン・アデュラレッセンス・ラブラドレッセンス・ペリステレッセンス」、オパールの「プレイオブカラー」などがこれにあたります。
基本的に石と外界の境界面ではなくて、その奥(subsurface)でなにやらゆらゆらしているように見えます。
番外編:「スター」「キャッツアイ」
強い光を当てると宝石の中に浮かんでくる「光源と一緒に動く光条」で、1本なら「キャッツアイ」2本・3本なら「スター」「アステリズム」と呼んでいる反射光です。“石の輝き”の文脈内に出てくることはあまりないですが、輝くスター・輝く瞳の効果ということで。
石の中に平行したまっすぐな針状インクルージョンがたくさん入っていて、カボションカットするとそれぞれの針に光源がピンポイントで反射して戻って来るために見られる効果です。
いろいろな要素がまざって使われている「輝き」という言葉について。
業界用語的な側面があり、たぶん人それぞれで指している内容が多少なり違うような気がするので、ざっくりこんな感じで、こんなシーンで使われている、という様な事を書きます。
テリ
全体的な石の光り方のことを指して言うような言葉に思われます。
物理的な光や、石ごとの特性、流行に照らして指す内容が変わっているように思われます。
「テリが良い」が「グレードが高い」ことを指すかと言うと必ずしもそうではなくて、例えばピンクダイヤで「テリが良い」は微妙(明るさが強いと色は白く見える。ピンクダイヤはピンク色が大事だから、”テリが良い”はエクスキューズ)なグレードなことが予想される一方、ジェダイトで「テリが良い」は良い(テリが明るさを指すなら、色は良くないはずだけれども、深い緑なのに透明感もあるときに使う)などと、一方向のスケール・定量的な指標を表す言葉ではないように思われます。
一番よく使われている言葉のような気がしまが、こんな感じなので人によってちょっとずつ使い方は違います。
ライヴリネス (liveliness)
そのままの翻訳で「生き生きした感じ。」ですかね?
海外トレーダーが使っている言葉で、日本語の「テリ」に近いですが、同じ文脈で「hazy」「sleepy」「swirly」などの言葉が用いられ、テリよりもっと「光り方」について具体的に言っているように思われます。
シンチレーションがよく、色も鮮やかでスキッと元気な宝石は livery。
ちょっと霧がかかったように奥が見えにくい光り方だと hazy。
全体的に静かに光っていると sleepy。
モヤモヤゆらゆら光って見えると swirly。
その他、 hazy でsleepy 。sleepy で swirly とミックスして使ったりすることもあります。
印象的に使われているようです。
※sleepyだから悪い、という意味だけではなく、好意的な場合にも用いられています。
日本ではほとんど使われていないと思います。(舌が上手く回らなさそうですし・・?)
力(ちから)
輝きを含む重厚感とか特別感のことを指すように思えます。
宝石全体の雰囲気が王様皇帝クラスな様なときには「力がある」と言ったりします。
本題の「輝き」については「テリ」もこの「力」の構成要素に含まれているように思われます。
オールドカットなのに完全無色でバチバチに光り輝くダイヤモンドは、「テリが良い」を超えて「力がある」と言うと思います。
余談ですが、私や私の周りでは、海外で言う「Majesty」よりはだいぶカジュアルなランクの石に対しても使ってます。
明るい・とぶ
「明るい」は宝石では、ルクス・ルーメン・カンデラ的な明るさではなく、色味に対して使われていることが圧倒って気に多いように思われます。「明るい」は良い意味の場合も悪い意味の場合もありますが、余談ですが、同じく色味に対して使われる「浅い」は、色が足りない(薄い)ときの悪い意味で使われます。
「とぶ」は「色とび」の「とぶ」だと思われます。
明るかったり、シンチレーションが細かかったりすることで、宝石の内包物や色が見えにくくなることを指しています。
「テリがいいからとぶよ。」と言うのは、テリが良いからびっくりしてひっくり返るという事ではなく、例えばダイヤモンドなら「ちょっと黄色くてインクルージョンもI1くらいだけど、よく光るから黄色さも内包物も目立たないよ。」などの意味で使われています。色・キズが隠れるくらい輝く。という意味合いのようです。
ダイヤモンドより輝きが強い。
上述のように、宝石の輝きについては、石ごとに好ましい面があったり流行があったりして、評価軸が多いものです。
「●●という宝石はダイヤモンドの2倍以上輝く!」と言う場合、そもそも宝石の種類が異なるのでなかなか比較は難しいかと思いますが、おそらく、こういった表現を広告に使う場合は”エビデンス”が必要なので、光学的に数字が出るものを評価軸にしていることが多いと思います。
となると、屈折率・反射率・透過率・吸収率・分散の数字を比べているのではないかと想像できます。
実際それでどんな見た目なのか、肉眼で分かるほど違うのか、などは実は判断しかねることも多いため、知らない宝石にチャレンジするときはちょっと突っ込んで聞いてみるのも面白いかも知れません。
まとめ
「ダイヤモンドの数倍輝く。」など時々見聞きするフレーズですが、宝石ってどれもだいたい輝いてない?アクアマリンも輝いているけどダイヤの何倍?など「輝き」という言葉の表すものは曖昧なようにも感じます。そんな宝石の「輝き」について、「テリ」のように曖昧に用いられているものや、「光沢」や「分散」の様にコンセンサスのあるものなど、それぞれの言葉が指す内容についてご紹介しました。日常ではほとんど使う機会はないと思いますが、見るだけではなくて言葉の表現も合わせて宝石を楽しみたいときの一助にでもなりましたら幸いです。