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漆黒の宝石「ジェット」とは?どんな宝石で、どんな時に使われているのか等についてご紹介します。

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「ジェット」と聞くとまずは飛行機を思い浮かべるかもしれませんが、宝石にも「ジェット」(英名もJET)と言うものがあります。和名もあり「黒玉」(こくぎょく)と言います。和名や冠詞の通り黒い宝石で、最近出てきたものではなく、長い歴史があり、王室や皇室でも用いられている宝石で、知る人ぞ知る、というマニアックな宝石ではないのですが、「あまりよく知らない。オニキス?」と言った声も聞きますし、また宝石業界でも実は取り扱っている方が少ない素材でもあります。そこでジェットという宝石のその特徴や魅力、購入時に知っていると役立つことについて触れます。

ジェットの特徴

ジェットは、1億8000万年の針葉樹が流木となり、湖底や海底へ沈み、堆積し、炭素で置き換わって化石になった宝石で、石炭の仲間といえば石炭の仲間ですが、”森”(木々や葉や動物など色々な物の集合)が石炭化したものでは無く、ソリッドな「木」が石炭化したもので、前者の燃料用の石炭とは異なり、研磨や彫刻に耐えられるほどには丈夫です。(化石化しているという点で「有機質宝石」と言うべきか微妙なところだなぁ?biological gem material の mineraloid くらいじゃないかなぁと個人的には思っておりますが、)一般的に真珠・琥珀・サンゴの仲間である有機質宝石に分類されています。

外観

  • 色:
  • 透明度:不透明
  • 艶:樹脂のような柔らかい光沢

見た目は不透明な黒色で、ピカピカではなくて蝋(ワックス)の様な控えめな光沢をしています。
もちろん、磨かずに、あるいは粗目に磨いたりしてマットなままにしておくことも出来ます。

触った感じ

  • とても軽い。オニキスの半分くらい。
  • 常温。温かいとさえ感じるかも。

比重は1.3強くらい(オニキスの半分ほど)ととても軽く、熱伝導率も低いため、肌に触れても冷たく感じることはまず無いです。

硬さや丈夫さ

硬度はモース硬度で4とかなり柔らかい部類になります。

薬品や日光などには強い部類です。他の有機物由来の宝石(真珠や琥珀)に比べると随分と丈夫です。

靭性(割れ欠けへの耐性)については、穴開けや彫刻・研磨ができるほどには丈夫ですが、鉱物一般に比べると脆く、他のオーガニックジェム(有機質宝石)同様に注意は必要です。また、不純物が入っていたり、緻密でなかったりなどの品質の低い物は更に壊れやすいです。

ジェットに似ている宝石と、ジェットとの違い(見分け方は特殊)

19世紀のヴィクトリア朝という英国が栄華を誇った時代にブームになっただけあり、類似品がたくさん出されたり、1つのネックレスに何種類ものジェットやジェット風の物が連なったものもあったり(それはそれで今となってはアンティークジュエリーとして興味深いですが)、不透明で黒い物(加えて屈折率もボヤっとしていて読み取りにくい)という特徴の少なさから、見分け方は結構特殊です。

その方法は「消去法」。そっくりさんたちの中でどれでもないことを確かめつつ、ジェットの特徴も確かめながら、黒曜石ではない→オニキスでもない→と可能性を排除していく方法が取られます。

以下にざっくりと、ジェットに似ている宝石とその違いを書いてみました。簡単な内容しか書いていませんが、参考になりましたら幸いです。(写真がなくて恐縮です。最下部の「参考サイト」には豊富な画像や、ここにはない情報が書かれています。その他、汎用的な鑑別手段については参考文献に詳しく載っています。)

似ている宝石特徴の差
オニキス(縞々ではなくて、”ブラック”オニキス)、オブシディアン(黒曜石)、ガラストルマリンブラックスピネルブラックダイヤヘマタイトなど光沢が明らかに強いことと、触った感じ冷たかったり、重量感があったり、透明度が違ったりと色々異なるので、ジェットではないことはすぐ分かると思います。
プラスチックほとんどの物で鋳造した痕跡(気泡や鋳込んだときの流れの跡や収縮した形跡など)が残っています。
水牛の角角の組織(細い平行の縞々)が見えることと、光が少し透過します。
ボグオーク(bog oak)“木っぽさ”がジェットに比べて明瞭に残っていて、気の繊維構造であったり、なにより光沢が木みたいで、ジェットより鈍いです。
無煙炭(anthracite)ピカピカです。磨かれたものはテカテカです。
ボルカナイト(vulcanite / vulcanized rubber)今では見る機会が少なく、アンティークジュエリーなどで見かける程度の様に思いますが、ジェットが流行していた頃には最もよくできたジェットのイミテーションとも言われていた物です。古いジュエリーだと、褐色~カーキ色に変色していたり、またジェットよりもかなり丈夫なため、ジェットのアンティークジュエリーに比べるとダメージが少ないことが多いです。また、持つと分かるほどにジェットよりも軽いです。
ガタパーチャ(gutta-percha)こちらも今では見る機会は少なく、アンティークジュエリーで見かける程度のように感じますが、ジェットの有名なイミテーションのひとつです。表面を塗って黒くされていて、地肌はグレー~褐色でものすごく柔らかく、研磨してもあまり光沢が出ないため、マットな質感をしています。塗料で光沢はある程度出るのですが、見るとやはり下地がマットなんだろうなぁと分かると思います。

他、検査対象物がダメージを受けるのでほとんどすることは無いですが、古典的な手法で、焼いた針を当てて、溶けるor燃える、匂いは?などを確かめる鑑別方法もあったりはします。
同じく対象物が傷付くため、ほとんどされることは無いですが、固い物に擦りつけて線を描き、その色を見て鑑別するという様な方法もあります。
(※どちらも現代のジュエリーショップや鑑別機関がやることはまず無いですよ。)

宝飾品としての用いられ方・魅力

魅力はしっとりした光沢と一様の黒さでしょう。ピカピカと光るような光沢ではなく、かと言って曇ってもいない上品な輝きや、黒真珠が持っているような干渉色が無く、静かな黒といった感じで、独特の落ち着きと格調の高さが感じられると思います。

ジュエリーとしては、丸玉を連ねたネックレスやイヤリングがモーニング(朝じゃなくてmourning。喪に服すような場面の)ジュエリーとして用いられているほか、日本では念珠の素材としても愛されています。

モーニング(mourning) に合わせらられるサイズグラデーションのジェットのネックレス

もちろん、黒と言う使いやすいカラーと、光沢・加工耐性・化学耐性の良さ、比較的大きなサイズでも軽い、などの性質を生かし、彫刻やカットを施されて普段使いにされたり、Quiet Luxury (クワイエットラグジュアリー)などと言ってちょっとハイソなファッションにも用いられています。

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カットや彫刻が施された、ファッション向けのジェット

歴史的には、紀元前からタリスマンや装飾に用いられていたり、宝飾品としては19世紀イギリスのヴィクトリア女王が夫であるアルバート公の喪に服す際にモーニングジュエリーとして用いたことで一大流行が起きたり、近年ではクワイエットラグジュなどに取り入れられたりなど、装飾用の素材としてかなり長くの間愛されてきています。

ジェットの品質について

「黒くて不透明」という、言葉だけだとほぼ特徴が無い感じながら、現物には品質の良し悪しはあります。

具体的には、マテリアルとしては不純物の量、緻密さ、色見。ジュエリーとしては加工技術と言ったところです。

不純物

まず、廉価なジェットだと不純物(珪素などの他鉱物)が混ざっていて、表面に出ている場合は一様の黒さを損ない、内部にあっても、例えばネックレスの糸を損傷したり、内部から割れを起こしたりすることがあります。

緻密さ

次の緻密さについては、こちらも光沢や強度に影響していて、隙間や穴がある物は研磨しても良好な光沢が得られず、また割れやすくなってきます。

色味

原石の緻密さにも関係して、緻密ではない物だと良好な研磨が出来ず、グレーや褐色を帯びた部分が出来たりし、漆黒と言うにはどうかな?という物もあります。

磨きが上手くできないと曇りガラスの要領でグレーっぽくなったり、粉っぽい部分は茶色く見えたりするものもあります。(ジェット、実は粉にすると焦げ茶色なんです。)

ジェットの穴開けをしたときに出た粉を紙の上で延ばしてみました。粉は焦げ茶色です。

ジュエリーとしての仕立て

ジュエリーとしての加工の良し悪しについては、やはり素材の特徴を理解して作っているかどうか?でしょう。もちろん、デザイン・コンセプトによって事情は違ってくると思いますが、硬度の低いジェットは、「金属との接触は極力避けて組み立てる」「金属と接触するなら擦れあわないよう固定する」などの随所に工夫がみられたり、そうでなくても理由があってそういう作りにしていたりと、いろいろ意図や気遣いのある仕上がりになっている物は良い物かと思います。

私自身は、スタンダードなネックレスだと、玉のグリップが良くスルスルと動かないテトロンを中糸にして硬度の低い水牛のクラスプを合わせることを好みますし、金具を着ける時もジェットと直接接触しないよう取り付けるようにしています。

(よく見ますが、ステンレスワイヤーにカシメカンだったり、ゴム糸を通して伸縮するものなどはスリリングですねぇ。。いくら加工が容易で利便性が高いとは言え、物持ちの良さという観点からはおすすめはしないです。)

その他、いまだにジェットでは無さそうな“黒い不透明な素材”が混ざっている連も見かけます。(元糸から外したときに、妙な質感だったりして気付くのですが、、)素材を理解していないと、こういったものを外さずに仕立ててしまうんだろうなぁと考えています。

安心して良いお買い物をするためには?

末永く使用できるジェットのジュエリーなので、なるべく安心して良いお買い物をしたいものです。

そのためには、販売店さんにアフターサービスや製作のコンセプトなどを尋ねてみると良いでしょう。糸交換や玉れ時の対応が出来、製作やデザインコンセプトについて知っていることなどが確認できれば安心ですね。

作り方を見て、前述のような素材を理解したうえで意図をもって作成されたものでしたら、品物としては大丈夫かと思います。もちろん、デザイン・コンセプトなどの関係で、金属パーツや金属中糸を使用している場合もりますので、その際は「この作りは大丈夫ですか?気を付けるこはありますか?アフターサービスは?」など少し相談してみて、納得できる内容でしたら良いと思います。

(私自身の経験で、完全な余談ですが、顧客支給のジェットをワイヤーに通してカシメ玉でクラスプ付けて!という依頼を受けたことはあります。「素材も良くないし、割れるよ。」と言うと「安さが一番!割れてもワイヤーだから簡単に直せるし、何回でも修理したらいいじゃない!」と。清々しい対応をなさる方だと納得したことはあります。)

余談は置いておいて、当方でご購入のジェットのネックレスにつきましては、ワイヤーほど簡単には直せない糸の仕様ではありますが、ご購入後の糸交換や、長さの微調整などはアフターサービス料金で承っております。

お手入れや保管方法

弱点は硬度の低さです。ご使用後や思い出したときに塵やホコリが付いていた時は、清潔で柔らかい布やブラシで優しく汚れを落とし、外に出しっぱなしにせず袋やケースの中で保管してあげてください。

また、ネックレスなどで糸のゆるみが出てきたら交換してあげてください。

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まとめ

ジュエリーに用いられる宝石「ジェット」について簡単にご紹介しました。過ぎない光沢と落ち着いた漆黒色で格調高い風合いから長い歴史のなかで愛されてきた宝石で、現代でも正式なモーニングジュエリーとして用いられていることは勿論、普段使いとしても愛されているジェット。硬度は低いですがアンティークジュエリーとして残るほどには長く持ち、「黒」という超ベーシックな色でフォーマル以外でも合わせやすい宝石なので、その特性を知って頂くことで、末永くいつまでも愛用できるジュエリーを見つけて頂ければ幸いです。

参考文献

Michael O’donoghue(2006), Gems 6th Edition, Elsevier Ltd.

CIBJO The Gemstone Book https://cibjo.org/wp-content/uploads/2023/01/22-12-22-Official-Gemstone-Book.pdf

参考サイト

以下のサイトに豊富な画像や情報が載せられています。

https://gem-a.com/whitby-jet-rings-necklace-jewellery-simulants

その他、V&A Musium や Yorkshir Musium など色々なミュージアムで結構なアイテムを見ることができます。

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この記事の著者

HechimaFlower

身近に楽しめるアクセサリー・ジュエリーの普及に努めております。宝石類の仕入れからデザイン・製作まで一通り行っております。若干気が抜けた屋号ですが、英国の宝石学ディプロマを取っていたり、ニューヨークでデザイン・製作・仕入れをしていたり、「筆・絵具で手描き、定規や秤の目盛りを読んで、、だったのがすっかりデジタルになったなぁ」と思うほどには長く業界に携わったりしています。プラチナや金・ダイヤモンド・真珠・カラーストーンなどの宝石を使用したアイテムがメインですが、イミテーションや合成石も抵抗無く取り扱っているのは経験の賜物と自負したいところ。メーカーさん・仲買さん・製造工場・鑑別機関などたくさんのお取引先企業と共に情報のアップデートにも尽力しております。プロフィール画像はデザイン画を描くツールで描いた歳神さまです。

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