パールネックレスにはどんな糸が使われている?通し方は?ワイヤー・絹糸など中糸の種類と、仕上げ方について。
真珠のネックレスに一般的に用いられている中糸の種類や、中糸の通し方をある程度知っていると、中糸替えを依頼したり、作り変えを検討するときに役立つかもしれません。例えばお手持ちのパールネックレスのお修理ついでに長さを調整したいとき「ワイヤーに変えてよいからパッキンを入れて長くなるかしら?」と思いつくと、多くの場合珠足しやGPTのオールナッツよりは予算が抑えられます。もちろん、メリット・デメリットなどもありますので、以下では一般的に広く用いられている中糸の素材や特性、基本的な仕上げ方の種類について簡単にご案内します。
中糸の種類
パールネックレスやブレスレットの中糸として使われている物は、主に以下の様なものがあります。
糸
繊維を縒った「糸」で、白・グレー・黒色が主な色です。おおよそ以下の種類が用いられています。特徴も併記しました。
- GPT(ポリエチレン):頑丈。丈夫。見た目は光沢があり、滑らかです。また、あまり伸びないです。(作りについていえば、頑丈な分扱いづらい。。伸びないので、大きな珠だと気を遣います。そして、お値段お高めです。)私どもの製品に通っている白い糸はほとんどこれです。
- テトロン(ポリエステル):ほどほどに丈夫で、見た目は絹っぽい感じです。メーカーによってやや性質が異なりますが、程よく伸び縮みするため、弾性がある仕上がりになります。また、若干真珠へのグリップが良いです。私どもの製品では、黒い糸はほとんどがこれです。一部の商品では白い糸も使っています。
- ナイロン:やや伸び縮みしやすい性質です。当方では使っていませんが、扱いやすいとは思います。
- 絹:正絹ですね。高級なイメージがあります。伝統的な糸。繊細なため、こまめに手入れして繊細に扱うような製品だとより愛着が湧くと思います。(ですが、当方では念珠以外ではほぼ使っていません。)
ワイヤー
主に細いステンレスを何本も縒りビニールでコーティングしたものが用いられています。コーティングの色(外側の色)は透明だったり白かったり、金色だったりと多彩に有ります。
特徴としては、ステンレスなので引きちぎることは出来ないくらい強いことは強いです。
ただし、捻じったり小さく丸めるなどしてテンションがかかると、はち切れたりすることはあります。また、金属なので折れます。ベビーパールやロングネックレスだと折れ目が目立つこともあります。
中糸の通し方について
「糸」と「ワイヤー」で通し方(仕上がり)が異なります。また、それぞれでも何パターンもの作り方があります。以下で代表的な通し方をご紹介します。
糸
糸は結び目を作ってパールやクラスプを留めます。主な仕立て方には以下のようなものがあります。
●「サイドノット」「普通の」「3つだけ」
クラスプ脇の真珠の間に結び目をつくってクラスプを留める方法。サイドノットなどと言ったり、「フツー(普通)の」と言ったりしています。だいたい左右3か所ずつ結び目が入れられます。「普通の」と言われている通り、広く一般的に用いられる作り方です。
●「途中にも結び目」
クラスプ脇の数個と、ネックレスの間にところどころ結び目を入れる作り方です。ネックレスの途中途中に結び目を入れることで、大きい(重い)真珠や長いネックレスで糸が伸びるのを抑えたり、部分的にテンションを調節したり、切れたときにバラバラになる被害を少なくしたりする効果があります。
主に糸が2本取りで通っている物と、2本を折り返して4本通っているものとがあります。後者はとても丈夫です。
●「オールナッツ」「オールノット」(オールノッツ?)
すべての真珠の間に結び目を入れる作り方。1か所切れても真珠は最大1個しか外れることはなく、また真珠珠同士が擦れにくくなっています。珠が1つ1つ独立しているので、非常に滑らかです。作業時間がかかり高価ですが、間に結び目があるという見た目には好みがあるかもしれません。
主に糸が2本取りで通っている物と、2本を折り返して4本通っているものとがあります。後者はとても丈夫です。
●「ボールチップ」
団子結びをボールチップの中に入れてクラスプを付ける方法。本真珠ではあまり用いられていないですが、イミテーションパールではよく見かけます。
ワイヤー
基本的には、カシメ玉やワンパッチン・ネジなどの金属パーツでカシめてクラスプを付けます。
テンションの調節や珠擦れ防止などの目的で真珠の間にクッションを入れることもあり、入れるところは糸の結び目の感覚と同じで、両脇数個であったり、途中途中に入れたり、すべての珠の間に入れたりします。
すべての珠の間にクッションを入れている物を「オールクッション」や「オールシリコン」と呼んだりしています。見た目に好みがあるかとは思いますが、テンションが緩めに(柔らかく)仕上がるため、はじけて切れることが少なくなります。
クッションは固定されているわけではないので、糸の結び目とは異なり、切れたら真珠は全て抜けます。
糸・ワイヤーの特徴とメリット/デメリット。
糸のメリット
素材が柔らかく、かつしなやかで、真珠との相性は良いです。自由度も高く、例えばエンドレスなどはワイヤーでは(厳密には)不可能です。
バロックパールのネックレスを程よくテンションを調節して滑らかに作ったり、10mmアップの重たいネックレスでも結び目を入れることで伸びにくく作ることができたり、ワイヤーの様に折れ目が付かないので、ロングネックレスなどでは使い勝手が非常に良いです。
糸のデメリット
デメリットは、扱いにある程度の習熟が必要なため、加工を依頼できる先がワイヤーに比べて少ないことでしょうか。その他、絹糸のような繊細な糸だと、ワイヤーに比べてよりこまめな手入れが必要になってきます。
ワイヤーのメリット
取り扱いの容易さに優れており、加工先が糸に比べると沢山あることは大きなメリットです。シリコンクッションなどの副資材と合わせて使うことで、比較的簡単に糸と比べても遜色ない仕上がりが可能です。
ワイヤーのデメリット
金属のため、折れ目は付きやすいです。折れてしまうとなかなか元には戻らず、ベビーパールやロングネックレスだと結構目立ってしまう場合もあります。
また、ステンレスだから切れない!というイメージがありますが、持たれているイメージよりも切れます。くるくる丸めてしまっていたらパツんと切れたという様なことは割とあるようです。(一定のテンションを超えると、糸は徐々に細い繊維がほどけて切れるのに対して、ワイヤーはプツっとはじけるイメージでよいのではないかなぁ?と経験的には思っています。)
どれが良いの?
色々な中糸や作り方をご案内しましたが、ではどれが良いの?と気になるところかもしれません。
”適材適所”特性を生かすことがベスト!が正直なところで、高価な真珠だから高価なオールノットが良いというワケでもなく(結び目嫌い、固い方が良い v s結び目気にならない、柔らかい方が好き、などの好みの違いもありますし、)一概にどれが良いとは申し上げられないのですが、選び方は大きく「中糸交換・修理」と「作り変え」とで変わってくるかと思いますので、次にアドバイスさせていただきます。
中糸交換や修理の場合
基本的には、元々使用されていた中糸と同じ素材の物で、元通りに通すことが無難ではあります。
糸の方が優れている、とは言われていますが、デザインや仕上がりで中糸をチョイスしている場合もあるので、基本的には、元々通っていた物と同じ素材・やり方が無難です。
例えばこちらの商品を糸で作ると、糸の柔らかさが引き立ってすこし脱力したような仕上がりになってしまいました。
(そして、何より糸で糸を縫ってしまって途中で絡んだりしてロスが多かった・・。)
出来上がりもアフターサービスもワイヤーの方が優れている、と判断した次第です。
作り変えたい場合
もしお手元のお品物の状態に不満があったり、雰囲気を変えたいなどの希望がありましたら、フォーマル用ネックレスなどのオーソドックスなデザインでしたら、仕上がり・メンテナンス性としてはGPT糸をお勧めします。ただし、前述のようにいざ修理しようと思った時に依頼先が少ないことがあるため、アフターサービスへのアクセス性は考慮に入れておく必要はあります。
その他、デザイン変更や長さ調節・テンションの調節・雰囲気替えなどをご検討でしたら、仕上げ方や予算を含めてご依頼先にご相談いただくのが良いかと思います。ご希望の好みになるべく沿うような形で中糸・仕立て方法のアドバイスがもらえると思います。
まとめ
ポリエチレン・ポリエステル・絹・ワイヤーなどの中糸と、サイドナットやオールクッションなどの仕立て方の特徴についてご案内しました。
中糸の種類や仕立て方とその特徴を知って頂くことで、パールネックレスのメンテナンスやリメイク・リフォーム・長さ調節への関心を少し高め、より永く、より高頻度に、よりバリエーション豊かにジュエリーを楽しんで頂けると幸いです。
雑談
GPTがよく推されている様で、私もまあ無難だとは思っていますが、GPTには黒をはじめ濃い色の物が無いんです。一方でテトロンや絹糸はカラバリが豊富。さらに、中糸にはここでご紹介したもの以外にも、形状記憶ワイヤー・テグス・ゴム・地金チェーン・地金線など色々な物が用いられています(フォーマルではないですよ)。斬新な物に出会うこともあるので、中糸のことも気に留めて頂き、少しアクセサリーの楽しみ方を増やしていただけると嬉しいです。